噛む噛むeverybody11 奥歯の喪失と高血圧の関係

歯の本数と歯周病の有無は高血圧と関係することは以前から報告されていました。
歯の本数が少なく、噛む力が低下している高齢者は身体機能が低下して、転倒リスクが高い傾向があることも知られています。これは口腔が変化すると、食品の選択や食習慣が変化することが影響していると考えられています。

高血圧は、75歳以上の日本人の70%が発症していて、主な死因の一つにあげられています。食事摂取の内容と高血圧との関係は広く知られていますが、口腔の健康と食事摂取の内容、高血圧の関係性については明らかにはされてきませんでした。

この関係性について、兵庫医科大学、新潟大学、丹波篠山市が共同で丹波篠山圏内の高齢者(65歳以上の自立した地域在住の高齢者894人)を対象にコホート研究(疾病との関係を調べる観察研究)を行っています。調査期間は4年に渡っています。

この研究では、対象となった高齢者の口腔内の状態を、残存歯数、咬合力(噛む力)、後方咬合支持(奥歯の噛み合わせ)、咀嚼能力、口腔内水分量、口腔内細菌数によって評価しています。

その結果、臼歯部の咬合支持域を喪失して、奥歯の噛み合わせのない高齢者では、高血圧のリスクが1.72倍と有意に高いことが明らかにされました。

咀嚼は食べ物を細かく砕いて飲み込むという消化の始まりで、健康の維持には重要な役割をしています。特に高齢者では影響が出やすく、厚生労働省の国民健康・栄養調査(2018年)では60歳以上の約25%が咀嚼機能の低下を訴えており、さまざまな食べ物を噛むことができない状態になっていました。

歯を失うと柔らかくて噛みやすい食べ物を選ぶようになり、食物繊維が豊富で栄養価が高い食べ物を避ける傾向になります。高血圧の原因としては、塩分(ナトリウム)摂取があげられることが多いものの、必要な栄養素(特にビタミン、ミネラル)が不足すると、早く栄養素を全身に届けるために血圧が上昇しやすくなっています。

今回の研究は横断研究のために、高齢者の高血圧、口の働き、食生活との因果関係は明らかにはされていません。今後は高齢者の血圧の変化を経時的に追跡していくことで、口の働きがよい状態を保つことが、どのように高血圧の予防に関わるのかを解明することにつながると期待されています。
〔健康ジャーナリスト/日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕