牛肉は太りにくいのか

「牛肉が太りにくいって本当ですか」という質問をしてきたのは、雑誌編集者でした。太りにくい肉といえば羊肉だということは健康記事を扱うことが多い雑誌を作っている人なら普通に知っていることだと思い込んでいたので、これは驚きの質問でした。そんな質問が出てくるきっかけはテレビ番組で、牛肉、豚肉、鶏肉を比較して、その中で牛肉が一番太りにくいという結論を出していたのですが、最も多い羊肉を出さずに、何を比較しているのだというのが私たちの考えです。
「羊肉を食べれば太らない」と言われるようになったのは、脂肪酸の代謝促進成分であるL‐カルニチンが多く含まれているからです。L‐カルニチンは肉類に含まれる成分ですが、細胞でエネルギー産生を行う小器官のミトコンドリアに脂肪酸を通過させるために必要な成分です。L‐カルニチンが不足するとミトコンドリアに取り込まれる脂肪酸が減って、その分だけエネルギー産生が起こりにくくなります。L‐カルニチンは体内で合成されているものの20歳をピークに合成量が減っていきます。これが代謝を低下させることになるので、L‐カルニチンが多く含まれるものを摂ることが重要になります。
L‐カルニチンの量は調べた肉類によって異なることはあるものの、一般には100gあたりで鶏肉は5〜10mg、豚肉は35mg、牛肉は60mgとなっています。これだけを見たら、牛肉は太りにくい肉だということになるかもしれませんが、羊肉の中でも少ないラム(仔羊)は80mgとなっています。この差でも羊肉は一番といえそうですが、マトン(成羊)は200mgを超えています。これを知れば、牛肉は少ないほうだといえるのに、ゲストのタレントが牛肉を好きで頻繁に食べていても太っていなくて、生活習慣病の心配もなく、長生きだというので、その裏付けを牛肉に求めようとして、こんな出し方をしたのだと思われます。
では、マトンを食べていれば太らないのかというと、マトンにも脂肪が含まれているので、食べすぎれば太るのは当たり前のことです。牛肉には脂肪酸のうち燃焼しにくく動脈硬化リスクを高める飽和脂肪酸が多いのに対して、羊肉には飽和脂肪酸が少なめで、燃焼しやすい不飽和脂肪酸が多くなっています。この事実からいっても、牛肉が太りにくいというような番組は作れないはずだとの話をさせてもらいました。