糖尿病の人が短命の理由

糖尿病の人は平均寿命が短い理由を知りたいという依頼が、テレビ局のプロデューサーからありました。番組制作会社のディレクターからの依頼なら、すでに放送が決まっていて、そのままアドバイスが放送されることが多いのですが、プロデューサー、それもテレビ局本体のプロデューサーとなると企画段階のことが多いのが通常です。しかし、これは“種まき”としては有効なことなので、積極的に協力をさせてもらっています。
今回の依頼で気になったのは、小さなことですが、平均寿命という言葉です。平均寿命は、その年に誕生した赤ちゃんが現在の生活環境や経済状況が継続した場合に、これから何年間生存するのかという推定値で、平均余命とも言います。平均余命は、それぞれの人が、あと何年間生きられるかを示したもので、0歳の平均余命が、いわゆる平均寿命となります。今回の依頼は「寿命が短い理由」という意味です。
糖尿病の人の寿命は、一般には10〜12年短いと言われています。何歳のときに糖尿病になったのか、どれくらい糖尿病の期間が長かったのかによって違ってくるのは当然ですが、寿命が短い結果であるのは事実です。テレビ番組では、このように一般には思われているが、実は……という切り口が好きで、話をするときにも、その順番にするようにしています。
糖尿病になった人が短命になる理由として、一般には血管の老化があげられています。たまたま、これを執筆する前にテレビ番組で運動と長寿研究の専門家が「糖尿病は活性酸素が多く発生して、それが血管を老化させるから動脈硬化が進む」と話していました。それをプロデューサーも見ていて、今回の依頼にも関係があったようですが、糖尿病と動脈硬化の関係は活性酸素よりも他の原因が最初にあげられています。それは血液中のブドウ糖(血糖)が増えすぎることによって、血管の細胞にブドウ糖が入り込み、それが糖アルコールに変化して細胞が水膨れ状態になることです。これによって細胞の新陳代謝が低下することになり、血管の老化が進むという説明がされています。
糖尿病になると活性酸素が多く発生するのも事実です。高血糖になると赤血球の中にある血色素のタンパク質であるヘモグロビンにブドウ糖が結びつくようになります。このときに活性酸素が多く発生するため、糖尿病では活性酸素が多く発生します。活性酸素によって動脈硬化が進む理由ですが、活性酸素によってLDLコレステロールが酸化すると、白血球のマクロファージが異物として取り込んで処理する貪食が起こります。多くの酸化LDLコレステロールを取り込んだマクロファージは活動を停止して血管の内膜と中膜の間に入り込むようになり、これによって血管を硬く、狭くする動脈硬化が進んでいくことになります。
糖尿病になると血流が低下します。それは血管の問題と同時に、赤血球が高濃度のブドウ糖によってくっつくようになって毛細血管を通過しにくくなります。毛細血管は赤血球のサイズよりも狭くて、赤血球はつぶれるような形で通過していきます。くっついてしまった赤血球は通過することができなくなるため、毛細血管の先に充分な酸素と栄養成分(栄養素と必要な成分)が送られなくなります。全身の細胞は酸素と栄養成分を取り込んで、それぞれの細胞が充分な働きをすることができることになります。
細胞にはエネルギー産生の小器官のミトコンドリアがあり、酸素と栄養成分を用いて、三大エネルギー源(糖質、脂質、たんぱく質)を燃焼させて、エネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)を作り出しています。このエネルギー物質を使って、細胞がフルに働き、血管の新陳代謝も盛んになり、内臓なども充分な働きをするようになることから、健康が保たれるようになります。これが寿命を延ばす結果となります。
ミトコンドリアにおけるエネルギー産生については、これまでも繰り返し説明して、このサイトに何度も載せているので、参照してもらうようにしています。