認知機能テストの結果は信じられるのか

ウォーキングによる認知機能の維持と改善への取り組みを行っていると、その評価法として認知機能テストの売り込みがあります。売り込んできた会社は、さまざまな試験結果を示して、自分のところが優れているということをアピールしますが、そもそも試験法が正しくないと、どんな結果が出されても信じることはできません。その方法というのは、運動の前と後に同じ試験を行って、その差をみるものです。運動後には認知機能が平均8%向上したというデータを示されると、飛びつきそうになるのは普通の感覚です。
違う試験を行って差を評価するのは難しく、ほとんどが同じ試験を行うのは当たり前のことだと思われます。これが身体機能の評価なら同じ方法でよいのですが、認知機能は脳神経の働きをみるものだけに、2回目のほうがよい成績が出ます。初めの試験は、いきなり出題されたり、初めて行うことであるので、うまくいかないのは当然です。同じ試験を、あまり時間を置かずに実施すると、前の試験の問題点を知り、わずかであってもコツを覚えているので、うまくいくだけでなく、時間も短くなることは普通にあることです。
そういうことがあるので、運動の効果があるかどうかの試験の前に、1回目と2回目の同じ試験で、どのような差があるかを確認してから、運動の前後で実施します。運動の前後の結果から、何もしなかったときの差の分を差し引いて、それで出た結果を有効とします。それを常識としている私たちには、運動の前後だけの結果を示されても頭から信じろと言われても、言いなりにはなれないのです。
医薬品の試験では、本物の医薬品成分が含まれたものと、形は同じでも医薬品成分が含まれていないものを使ってもらって、その差をみて有効性を確認します。本物ではないものはプラセボ(偽薬)と呼ばれていますが、有効成分が含まれていなくても本物と思い込むだけで効果が出ることもあります。心理的な要素で、血圧や血糖値が下がるということは、よくみられることです。このプラセボ効果の分を差し引いたのが、医薬品の有効性として評価されます。
運動は本物でない方法を施すことができないので、前後の試験の差をみるだけでよいという考え方をする研究者もいますが、認知機能は覚えることに関わる能力でもあるので、何をするのかわかっていて実施される2回目の試験の結果を正確に出すためには、運動なしでの比較試験も行うのは当然のことです。私どもに売り込みに来る前に、この文章を読んでほしいのです。お互いに手間を省くためにも。