認知症と認知症もどき

“もどき”というのは本物ではない偽物を指す言葉です。がんもどきというと一般には、豆腐に野菜を混ぜて油で揚げたもののことで、雁(がん)の肉に味が似ているところから名付けられたとされています。実際に雁の味に似ているかどうかには異論もあるところですが、もどきには似て非なるものという意味の他に、今では匹敵するものというプラスの意味でも使われるようになっています。
医科学の世界では“もどき”というと別の「がんもどき」が使われています。それは本物のがんではなく、偽物のがんのことで治療をしなくても問題がないものとされています。それなのに治療をしたために、かえって寿命を短くすることがあるとして警鐘を鳴らしている医学者もいます。
今回の話題のもどきは、それではなく“認知症もどき”です。これは正式名称ではなく、軽度認知障害という認知症の前兆状態を指しています。軽い認知症といえるもので、この少し問題がある状態は何もしなければ50%が5年以内に認知症に進み、工夫と努力によって20%は正常状態に戻ることができるものの、その甲斐がなくて30%は軽度認知障害の状態にとどまるとされています。工夫と努力と書いたのは的確な治療法がなく、医師から「適切な栄養、適度な運動、充分な休養」という当たり前とも思える指導しかされないからです。それでも当たり前のことによって5人に1人は正常な状態に戻ることができるのなら、積極的に栄養・運動・休養に取り組む意味はあります。
軽度認知障害については、医療機関で配布しているフリーマガジンの『カルナの豆知識』で記憶力チェックとしてチェック表からリスクを知り、自分でできる改善法のアドバイスを実施してきました。日本メディカルダイエット支援機構の理事長がフリーマガジンを発行する団体の特別顧問を務めていることから実現しましたが、70歳を過ぎた方の場合には自分で認知機能に不安を感じている人は確かに軽度認知障害の疑いもありました.しかし、若い人で不安を感じている人は軽度認知障害としての認知症もどきではなく、別の認知症もどきかもしれないということをチェックへの返答をしながら感じたものです。
認知症の基準では脳細胞の減少か機能低下による脳機能の異常が軽度認知障害のリスクを高めるということですが、それ以外の原因も認知機能に影響を与えます。イライラが募ったり、正常な判断ができなくなったり、当たり前のことをしているはずなのに強い疲労を感じるということが見られるようになっています。その原因として“血管脳関門”の機能が指摘されています。これは脳に血液を送り込む脳の毛細血管で、脳に悪影響を与えるものを入れないようにするための関所のような役割をしています。これが正常に働いていれば余計なものは入らず、脳は正常な働きを維持できると考えられてきました。
しかし、詳細がわかるにつれて、関門を通過させないのは、これまで通過しようとしてきた物質などであって、未知のものがきた場合には通過させてしまうことがあることが指摘されています。未知のものへの対応というと肝臓は過去に経験のない毒性物質に対応できる酵素が完成するまでは、万能酵素が代わりをしています。そのようなものは血管脳関門にはないので、脳までストレートに通過することは当然のように考えられることです。
このようにして起こる可能性が高い認知症もどきは、通常の長谷川式などの認知機能検査では判明することができません。記憶力の低下なら判別しやすくても、判断力の低下となると、個性なのか年齢を重ねて頑固になったのか、それとも脳の機能低下によるものなのかは判別がつきにくいのは仕方がないことです。認知機能の低下防止・向上には有酸素運動に効果があることが厚生労働省の「介護予防マニュアル」には書かれていますが、リーダー格にある人は自らの判断・決断が正しいのか、常に立ち止まって考えてみることは認知症もどきが広まっている時代には必要かもしれません。