認知症の治療薬はあるのか、ないのか

認知症は決定的な治療薬がないので、認知症予防のための運動、栄養、休養は、認知症の症状がみられるようになってからも続けるべきだという話は、機会があるたびに話しています。その話をしたときに、必ずといっていいほど聞かれるのが「認知症の薬はあるんじゃないですか」ということです。あるにはあるのですが、その薬が皆さんが期待するような薬となっていないので“決定的な治療薬がない”と、わざわざ言うようにしています。
アルツハイマー型認知症を対象とした抗認知症薬が販売されたのは1999年のことで、塩酸ドネペジルはアルツハイマー型認知症の軽度、中等度、高度、レビー小体型認知症に用いられます。2011年にはガランタミン、リバスチグミン、メマンチンが販売されました。ガランタミンとリバスチグミンはアルツハイマー型認知症の軽度、中等度に、メマンチンはアルツハイマー型認知症の中等度、高度に用いられます。これらの4剤が登場するまでは、治しようがなかったということです。
治療薬のイメージというと、薬を飲めば血圧が下がる、血糖値が下がるというような治ることが期待されるのですが、アルツハイマー型認知症は記憶能力や精神機能が失われる病気なので、それを薬によって回復させることはできません。何ができるのかというと、徐々に進行していく認知症の症状を遅らせる効果です。どれくらい進行を遅らせることができるのかが気になるところですが、現在のところは半年か1年くらいとなっています。
進行を遅らせることで認知症になった本人にとっては認知力が以前の状態に近いという時間を長くすることができるとともに、家族にとってもメリットがあると説明されています。家族にとっては、急に認知能力が低下すると対応ができなくなってしまいますが、対応するための時間が半年なり1年なりあるので、この間に準備をして認知症患者としての家族を受け入れてほしい、というのが医薬品の開発者の考えだということを、専門の医学会で聞いたことがあります。
ということは、認知症の治療薬に期待をするのではなく、できるだけ自分の力で発症を遅らせるように、進行を遅らせるようにしなければならないのが現状だということがわかるかと思います。