“下戸にご飯”の話

体質的にアルコールに弱くて飲酒できない人のことを下戸(げこ)と言います。これは古代日本の律令制度の課税の分類からきた言葉で、収入が多い人から大戸、上戸(じょうこ)、中戸(ちゅうこ)、下戸と分けられていました。収入が多い家ほど飲酒量が多く、下戸は飲酒量が少なかったことから、お酒を飲めない人のことを下戸と呼ぶようになったといいます。お酒を多く飲む人のことを上戸と呼んでいます。
上戸の人は飲酒量が増えるとご飯の量が減る傾向があります。傾向があるどころか、飲酒中にはほとんど食べないという人もいます。一般には飲酒のときに食べるものは、つまみと呼ばれます。今では関西のアテ(酒にあてがうもの)も全国区になりつつありますが、つまみもアテも多くの量を食べるという印象ではなく、お酒をおいしく飲むために口に入れるものという感じがあります。飲酒するときでも、しっかりと食べてほしいという思いもあって、つまみでもアテでもなく、“おかず”と呼ぶようにしている栄養関係者が増えています。
三大エネルギー源のうち糖質とたんぱく質は1g当たり約4kcalのエネルギー量がありますが、脂質(脂肪)は約9kcalもあります。これに対してアルコールは1g当たり約7kcalのエネルギー量があります。といっても、これは100%アルコールの場合で、25度(%)だと4分の1の量となります。100mlで比べて見るとワイン(14%)だと約80kcal、焼酎(25%)だと約140kcal、ビール(5%)だと約40kcalとなります。
これだけのエネルギー量があるので、飲酒量が増えたら、ご飯の量を減らさないとエネルギー源の取りすぎになるということで、当然の反応かもしれません。しかし、アルコール飲料には少しは栄養素も含まれているものの、そして赤ワインやビールにはポリフェノールなどの有効成分も含まれているものの、ご飯をしっかりと食べるのに比べると、エネルギー量が多いだけと言えます。
古代の下戸は家の収入が少ないので、ご飯の量は少なかったわけですが、今の下戸は飲酒量が少ないか飲まないことからご飯の量は増える傾向があります。家計の消費支出に占める飲食費の割合をエンゲル係数といいますが、以前はエンゲル係数が高いほど収入が低い証拠とみられていました。しかし、これは家庭での食事が中心であった時代のことで、高収入者ほど外食の回数、外食で使う金額が増えていきます。おかずを外で買って、家庭で食べる人も収入が増えるほど多くなっています。こういうこともあって、エンゲル係数だけで収入をみることはできにくくなっています。
そこで今、食事と収入の関係として注目されているのは米(精白米)の購入量です。米を多く買うほど家庭で食事をする機会が多い傾向があります。お酒を飲むときには、ご飯を減らす傾向があるので、下戸のほうがご飯を多く食べています。このような状態を示す言葉として使われるようになったのが冗談のようですが、「下戸にご飯」です。もちろん、「猫に小判」のもじりですが、これは価値がわからない人のことを指す言葉です。これに対して「下戸にご飯」は価値がないどころか、価値ある言葉です。
お酒ばかりを飲んでいるのではなく、飲酒量を減らして、その分のエネルギー量をご飯で補って、ご飯のおかずの種類を増やしてほしいと願っています。おかずは漢字では御加数と書きますが、これは江戸時代の健康指南書『養生訓』(貝原益軒著)で、おかずの種類を増やすことが健康の秘訣として紹介されています。