脳の機能を高めるには歩いて酸素を送り続ければよいのか

有酸素運動は酸素を取り込んで身体を動かすことから、頭の回りがよくなることを実感する人が多くなっています。脳のためには酸素を取り込むことだと一般には説明されていますが、酸素だけで脳の働きがよくなるのかと聞かれたら、それだけではないと答えるようにしています。脳細胞を働かせるためには細胞の中でエネルギーを発生させなければなりません。
エネルギー源というと一般には糖質、脂質、たんぱく質で、実際にエネルギーとして代謝に主に使われているのはブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸です。全身のほとんどの細胞は、3種類のエネルギー源を使うことができるのですが、脳の細胞だけはブドウ糖しか使うことができません。ブドウ糖を摂らないことには、脳細胞を働かせるためのエネルギーは発生しないということです。
このことをセミナーで話したときに、「エネルギーは他の細胞に伝わらないのですか」という質問がありました。質問者は、エネルギーは伝わるものだから、何も脳細胞の中で発生しなくてもよいのではないか、という感じの口調でした。つまり、疑ってかかっての質問です。これに対する答えは「伝わりません」です。神経の伝達は電気のように神経細胞を伝わって、次から次へと伝えられていくのですが、細胞内で発生したエネルギーは、その細胞の中でしか使われません。いわば“地産地消”的な使われ方です。
となると、一つひとつの脳細胞の働きを盛んにするためには、一つひとつの脳細胞にブドウ糖を取り込んで、それを細胞内のミトコンドリアで代謝させて、エネルギーを作り出すしかないことになります。ブドウ糖の代謝のためには酸素が必要で、酸素が不足すると多くのエネルギーが作られなくなるので、学力や集中力を高めるためにも、もともとの認知機能を維持するためにも充分な酸素摂取が必要です。それもあって、認知機能の改善のためにウォーキングすすめられ、このことは厚生労働省の『介護予防マニュアル』にも国立長寿医療研究センターの『認知症予防マニュアル』にも重点事項として書かれています。
ブドウ糖のエネルギー代謝には、ミトコンドリアにブドウ糖を取り込むために使われるα‐リポ酸が必要です。α‐リポ酸は体内で合成されるものの20歳をピークにして、年齢を重ねるほど減少して代謝も低下します。α‐リポ酸は医薬品成分だけでなく、食品成分としても許可されていますが、サプリメントで摂る場合には天然型のR‐αリポ酸でなければなりません。このことについては、このサイトの「サプリメント事典」のα‐リポ酸を参照してください。